16 出戻り君
あいつ居るかな?
カミイが俺と知合う前に寝泊りしてた畑小屋に行ってみた
ずいぶん古い小屋だけど屋根は修理してあるから雨漏りはしない

ここには2年近く前からPが奥さんと子供と3人で暮らしてる
バンコクで仕事をしてて結構な給料を貰っていたと言うが
経済危機の後リストラにあって親戚を頼って この村に来た

その親戚は迷惑だろうが行き場の無い彼を泊まらせ食事を提供した
Pも最初は少しは金も残っていたから食うのには困っていなかった
でも いつまでも世話になっては いられないから百姓を手伝ってた

高校まで出て仕事もバンコクの会社だったから
村の人とは違い考え方も都会的で身体を使う仕事は苦手
最初は すぐにバンコクへ帰ると誰もが思ってた

しかし 音をあげず働くから親戚がカミイに相談に来た
親戚は自分の田畑も持ってたけどP達に働かせて収穫を分けるほど
多くの耕作面積を持っていなかったので助けを求めに来た
カミイの畑を小作してる分をPに廻して良いかって相談、、

Pの親戚が小作してる位の面積では食えないが 
その頃 他に遊ばせてる余分な田畑はカミイにも無かった
勿論Pの親戚が使っている分をまわすのは異存は無かったけど、、

どうなったか 親戚の田畑の一部とカミイの分を彼にまわして
カミイが小作から貰う収穫を棚上げして他の田畑が空くまで待つ
それで何とかP達の食う分は確保できるって事で落ち着いた

痛んでた小屋も提供した 親戚の友人達が藁屋根の修理を手伝った
Pは慣れない畑仕事を村人に教わりながら頑張っていた
ただ奥さんは畑仕事には向かないみたい、、(離婚しなきゃいいけど、、)

紹介が長くなったが俺が行ったら彼が顔を出した
集落から離れて住んでいるから会うのは久しぶり!
冷えたコーラと子供の為のお菓子を土産に差し出した

彼は教養があるから自分に溺れる事無く酒は村に来た時にやめた
飲みたかっただろうが子供も学校に行かせなきゃって考えたろうし、、
しばらく見なかったら子供も大きくなってる 来た時は小学校に入る時
今は3年かな4年かな?

彼と寝たのは彼が村に来てすぐ 彼の方から誘いかけてきた
村人が寝て「アルバイト」してるのを見て「現金収入」って考えての事だ
バンコクで働いての給料から考えれば俺の渡す金なんて小さかったと思うが、、
それでも来た頃は他に現金収入は無かっただろうし、、

彼とは「話が合った」 今では友人に近い 彼の小屋に上がり込んだら
奥さん「どうぞ使ってね、来てると知ってたから ここ暫く寝てないわ」って
冗談とも本気とも取れる話を笑ってする、、
最初に寝た時の彼のセリフが「妻の許可を貰ってきました」だったから、、
(まあ浮気と違って彼にとってはアルバイトだったから でも話すか普通?)

近況を話してくれた 奥さんが散髪屋を始めたという 
と言っても店は無く 有るのは鏡にハサミやバリカンだけ
あ!そう言えば小屋まで電気を引いてあった(今 気付いた!)

奥さんのセンスは都会的で村の人に受けたらしく女の客が来るって、、
(じゃ散髪屋じゃなくて美容院か?) 僅かだけど現金も稼げるようになって良かったね!
あ!このワニのマークのハサミ 俺のだ!髭のカット用に以前送ったら消えてた、、
日本のアリスってメーカーの良く切れる鋏、、犯人はカミイだな、、

俺が世間話をしてたら奥さん「気を利かせて」子供を連れて出かけて行こうとする
いや今はまだ明るく暑い 今晩の相手を探しに来ただけ予約して良いかな?
そんな訳で その夜は彼「奥さんに見送られて」泊まりにきた、、  


17 尊厳
写真ページ1の俺の家の遠景 手前に大きく写ってるのがタオの姉の家
タオは いかにもイサーン顔した22才位の青年で笑顔が可愛い
彼は畑の小屋で寝泊りしてるが昼間はこの家に居るから彼の家と言おう

最初に村に着いて彼の家の前を通ったら爺さん寝てる
病気だって言うけど病名は聞かなかった、、
村の心無い人達がエイズって噂してたけど老人がHするとは思えない

昨年の暮れは夜が冷え込んで今年も偶に冷え込む日があった
彼の家は壁で仕切られた部屋が無いから夜は寒いだろう
昼間に家の前を通ると身体を拭いたり看護する姿を時々みかけた

でも病院に連れていった気配は無かった 
最初は起きて食事してたけど いつの頃からか寝たきりになった
寒さも堪えるだろうから せめて入院でもと思うが口出しはしなかった

俺がスリランカに出発する前は食事も喉を通らない有様だった
せめて点滴でもすれば体力が少しは回復するのに、、
まあ俺に出来る事は「おかゆパック」等を差し入れする程度、、
(だって肉缶を差し入れしたら爺ちゃん食わずにタオ達が食ってた)

この家は決して貧しい訳じゃない姉の子供(3歳位)は良く御菓子を食べてるし、、
その旦那の仕事は日雇いだけどキツイ仕事だったから日当は150Bはあった
トラックに荷を積む仕事だから爺さん病院にトラックで運ぶのは簡単な筈だし

俺がスリランカから帰ったら爺さん死んで居なかった
もう通夜も終って すべてが済んでた

俺の新築の家の材料が少し足りなかったからカミイと買いに行った
帰りがけに近道して細い道を通ったらカミイが
「爺さん ココで焼いたんだ」って雑木林を指差す
そこは建物など建っていない ただの広場に通じてる、、

「え!以前 寺の坊さんが死んだ時は寺で焼いたろ!」
「あれは偉い坊さんでしょ 一般の人はココで焼くんだ」
「なぜ?タイは火葬だろ!どうしてこんな場所で焼くんだ?」
「寺で焼いたの見たでしょ 立派な家形の棺桶作るのに幾ら掛ると思ってるの?」

彼の説明によれば 死者は家と共に燃やすのが正式だと言う
しかし家を燃やすとなれば安く作っても6000Bは掛るとか
だから偉い坊さんの時は村中でカンパして家を作って送り出したが
一般人の時はココで焼けば家を作る費用が掛らないと、、、

重ねて聞いたら村人で家型の棺桶で正式に焼かれたのは数人とか、、
多少の金が有っても その金はモーラムの方に廻すらしい、、
そう言えば墓も みすぼらしい(盆に墓参りって習慣は無いし)

俺は愕然としたが彼には平常の事だから「それが当り前」
そして聞いた「もし俺がココで死んだら やっぱりあそこで焼かれるの?」
「せいちゃんは金が有るからちゃんと家(家型の棺桶)作るだけ残すでしょ
 そうでなくても村に井戸を作ったり沢山タンブンしたから村人が金を集めるよ」

うわー まさか死んだ後まで金でランクが決まるとは思ってもいなかった!
立派な墓とかは金の問題で日本でも差があるけど、、火葬は、、
俺の考えは日本人のエゴだろうか、、今でも判らない、、

カミイが具合が悪い時は早期に病院に行って今回も手術で助かった
以前 他の人が事故した時も病院に見舞いに行った
今回の爺さんの場合は老衰かもしれない、、

しかし、、それでも、、治療をすれば もう少し長く生きられたかも、、
そしてカミイが俺に言った「タオと寝ちゃダメだよ爺さん病気で死んでたら
もしかすれば彼にも移ってるかも知れないから」
そう彼も老衰か病気かは知らなかった、、

まあTVで見るようなエイズの末期患者に見られるような特徴は無かったけど
今迄も川魚を食べて寄生虫で死んだ人を何人も知ってるし、、
そう言えばチャンの父さんが寄生虫にヤラレタ時は死ぬ数日前に
病院から家に退院してきてた、、もう死ぬって判ってたから、、

命の沙汰も金しだい? それとも死についての感覚が俺とは違うの?
たぶん そのどっちも含まれてるな、、


18 徴兵
日本だと兵隊に入るって事は(自衛隊へ自ら志願しなければ)無いが
タイは抽選で運が決まる クジで赤か黒を引くと言う
毎年の事だが この時期に俺が訪れる頃には彼らの運命は決定してる、、

新年で出稼ぎに出てた若者も沢山帰って来てるから その話題に、、
いつものバス停でタムロしてる彼らにHのお誘いをした時だった
「こいつ明後日バンコクに働きに帰るから今寝ないと兵隊に行ったらもう会えないよ」
「え!赤引いたの?」彼がうなずく、、

ここに集まってた10人程の中でクジの対象年齢だった奴は4人
その内の2人がクジに当ってしまった
1人は村で百姓してるが紹介された彼はいつもはバンコク
だから今寝ないと2日後にはバンコクへ去ってしまって会えないばかりか
来年も兵隊へ行ってしまって会えない事になる、、

彼とは出稼ぎ前には良く遊んでもらってた、、
出稼ぎに出た後も俺が5,6月に行く頃は田植えに帰ってきてたし、、
農作業で鍛えられた身体は出稼ぎの力仕事で更に締まったカラダツキになってる

「じゃ今の内にお願いしようか!」、、彼の友人も3人一緒に付いて来た
新年になってから俺がビールおごったりして気前が良かったから期待してるな、、
まだ昼間だから そんなに何人も要らないけど まあいいか、、

Hは彼ともう1人にお願いして「満足」したので打ち止め
期待通り冷蔵庫からビールを出す(俺は飲まないけどシートン用に入れてある)
エアコンの効いた部屋からは用が終っても帰ろうとせずチビチビ飲んでた

俺が兵隊にいつから行くのって聞いたら、、
「本当は行きたくないよ、、」って深刻そう、、
兵隊に行って安い給料貰うより今の仕事が金になる
バンコクで彼女が出来たのに離れたら心配

飲んだ勢いもあってか彼の口からは行きたくない理由がイッパイ飛び出す
彼の同年の今年徴兵される奴も来てたからステレオで聞かされた、、
徴兵制度が日本には無いから俺にはクジを引く体験さえ無かった
だから実感として捉え難い話だが彼らには寸前に迫った現実、、

俺の国には陸続きで接する国は無いし あまり隣国との関係を考えた事も無い
タイはカンボジア ミャンマー ラオス マレーシアと隣国だらけ
兵隊を無くす訳にはいかないと思うが 兵隊に強制的に徴兵されるってのも、、

世界的には徴兵制が在る国がホトンドだろうが
日本は無いから我が身として真剣に考える事は無かった
今までも毎年 村の若者が兵隊に出てたけど 
あまり その事について話す事もなかったし、、

今 紛争が起きている訳じゃ無いから危険って事は無いと思う
でも今 日本で自分の意志以外の力で自分の進路を決められてしまう
そんな事は考えられなかったから我が身に降り掛かったらどう思うだろう、、
(個人的にはゲイだから男だけの世界に飛び込んでみたい気もするが)

クジで人生の進路が変るとか 自分の意志に反して強制的にとか
日頃は考えない事を考えさせられた時間だった、、 


19 娯楽その1 TVゲーム
村に娯楽は少ない 若い人が楽しんでるのはギターを弾いたりとか
少しオジサンなら闘鶏とか 他にTV見たりモーラムへ行ったりも娯楽かな、、
元気な奴はセパタクローとかサッカーで汗を流してる

午前中の日課でマッサージを頼む 日に3回位はマッサージするが
朝のその時間は子供達のバイトの時間
小学校を卒業して学校に行かなくなった奴とかは平日に
中学校に進学してる奴は日曜 祭日に順番を組んでまわす
(中学の途中年度までが義務教育になったと聞くが進学は半々かな)

マッサージのバイトは1人だけだが彼ら誘い合って4人位で来る
お目当てはTVゲーム 英語や日本語の字幕が出ないスポーツゲームや
アクションゲームがお気に入り、、
マッサージしてる横でゲームのコントローラを指で押して遊んでる

以前あんまりうるさいからゲームの貸し出しもしたけど壊してしまった
ファミコンのコピーの「ファミリー」等は安いから構わないけど
プレステは高価だから そう何度も壊されてはたまらないし、、、
それにCDが傷ついて遊べなくなるから持ち出し禁止になっている

だから人数制限がある この部屋に入るのは多少の特権が要る
その日に按摩する奴の友人が一緒に来れる訳だから
友人の多い奴やガキ大将は来れる回数が多くなる

彼らの流儀を見ているとゲームで負けたら交代してる
下手な奴はすぐ負けるからスグに交代、、上手な奴は長い時間 遊べる
これだと下手な奴がゲームに触れる時間が少ないから何時までも上達しない
だから差は広がるばかり、、ただゲームによって上手 下手に差が出るが、、

俺が偶にはドラゴンクエスト7に夢中でコントローラを渡さない時は
俺のするゲームを見ているが意味が判らないから長くやってると
他のゲームCDの遊びたいのを捜して握り締めてイライラしてる、、

1時間で按摩の時間が終るがゲームしたいから帰ろうとはしない
(そうは いくか!俺だってゲームやHしたいから時間制限付きだよ)
そんな時は「大工の仕事を見に行くから部屋を閉める」って出て行ってもらう

按摩のバイトが15,16才の子の場合は連れてくる友人も14〜18歳
付き合っている友人の年齢によって その子がどのグループに属すか判る
年下の連中と一緒に来る奴は まだ精神年齢が子供だから手をつけちゃイケナイ

年上の青年グループと来る奴は そろそろ俺のターゲット
そんな奴に限ってゲームよりスケベに興味が有る精神年齢だから
ゲームCDを選ばずにアダルトビデオのCDやビデオを選んで見てる、、

もう1人前にチンポをビンビンにしながら按摩の仕事をしている
(ビデオに夢中になって忘れて按摩の手を止めるのも この年代
Hのバイトに来るようになれば しばしば見るから夢中にはならなくなる)

偶に冗談でズボンの上から握ってビックリさせる事はあっても まだ手はつけない
それがOKの時期が来れば年上の友人がHのバイトの紹介に連れてくる
カミイが その子を子供って判断しなければ初めてOKのサインが出る

出稼ぎや兵隊に徴兵 される年齢の人数が減る分だけ引継ぎがあるみたい
まあ毎年1歳ずつ年をとる訳だから 当然と言えば当然の事だけど、、

たかがTVゲーム されど基準を測る道具でもある
勿論 20歳過ぎても TVゲームは人気だよ 遊ぶソフトは違うけど、、


20 娯楽その2 映画
村の人達 映画が好き しかし映画館は近くに無い
以前は移動映画が 時たま来てたけど最近は来ないな〜
TV有る家が増えたからかな?それとも俺が居ない時期に来てるのか、、

カミイに「お年玉」の約束通りVCDが見れるステレオ買った
アイワの安いやつだけど それでも7500Bだった、、
カラオケ付いてるけどエコーは無かった!まあ喜んでるからいいか、、
これで俺のSONYは安全だ、、

バンコクから来る時にスケベCDだけじゃなく他にも買ってきてた
アミタ用のターザンとか101(デズニーの実写版)等 数枚
カミイ達にはタイの映画に詳しくないから「流行ってるのを下さい」って
バンディープの店の人に10組位 選んでもらった

メイビアとか言う(正式の題名か読めないから定かじゃないけど)CDと
ちょっと昔のタイの戦争物が受けてた
カミイはアイワを買う前に俺の部屋で見てたけど
(療養中で寝てばかりだから映画でも見ないと退屈)
アイワが来たら「お披露目」兼ねて映画会を開く事になった

ちょうど21インチのTVを もう1台「まとめて買えば安くする」って声に
新居用の来客部屋にでも置くかと買ってきてたから2台使って皆が見れるように、、

うわ〜下の部屋 人が入りきれない位にイッパイ 30畳以上の広さなのに、、
何でも俺が買ってきた そのCDは今話題になってるとかで、、、
家に帰った人が「見た」って言うから他の人が見に来て次の日も同じのを、、、

メイビアは蛇の仮身の男と旦那が居る女の浮気物語みたいな映画で、、
最後が悲惨だから好きに為れなかったが 彼らは流行だからか熱心に見てた

後 ずいぶん以前に日本でもTVでやってたMr ビーンのコメディも受けてる
Mr ビーンは日本じゃそれほど放送してないけどタイでは有名だった
これはCDの映画に関わらずTVシリーズも見てて楽しい

以前は映画を見る為に片道10Bのバス代と映画代20Bを握り締めて
野宿覚悟でサコンまで見に行ったりしてた人が多く居たという
バスが1日に1往復だから映画を観てたら どうしても1泊してた、、

それでも ホンの時たま(1年に1回位 米の収穫が終った後の贅沢として)
何人かで誘い合って出かけたって言うから「贅沢な娯楽」だったんだよね、、
タイの田舎もTVが普及してきたから そのうち映画館も減退していくだろうな、、

同じ映画を3回も見たカミイが文句1つ言わずに上映会をしてるのは
タンブンの境地かな そして この頃から元気が出てきて食欲も増えた
カミイが元気になってくれたから俺も嬉しいや!


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